企業が社員に対し、一定の賃料を受け取って社宅を提供する際は、「建物賃貸借契約」を交わすのが一般的です。ここでは、建物賃貸借契約についての基礎知識と、社宅代行会社が間に入る場合の契約の注意点などを解説します。

【監修】
村上忠礼氏
株式会社タイセイ・ハウジー法人本部副本部長。
1995年の社宅管理代行サービススタート当初より現在まで従事する、社宅管理のプロフェッショナル。
建物賃貸借契約とは?
アパートやマンションを借りる際は、貸主と個人との間で「賃貸借契約書」を取り交わして契約を行います。「賃貸借契約書」とは、物件の貸し借りを行うための契約書で、物件の基本情報・付属品・契約期間・賃料・更新料・解約通知の期日などの内容が記載されています。
貸主と個人が直接やり取りすることは少なく、不動産会社を仲介して契約するのが一般的です。借り上げ社宅でも同様に、賃貸借契約書を取り交わします。この場合、契約を結ぶのは貸主と企業です。
社宅代行業者が入るときの
建物賃貸借契約の注意点
注意したいのは、企業が社宅代行会社に業務を委託している場合です。社宅代行業者とは、企業からの依頼を受けて、物件探しや契約・更新・解約業務を代行したり、入居者の管理などを行ったりする業者のことです。
社宅代行業者が貸主と企業の間に入る場合、建物賃貸借契約は貸主と社宅代行業者で結ぶことになります。賃貸借契約書の署名欄にも、社宅代行業者が署名捺印を行います。
トラブルになりうるのは、代行業者が企業の社員以外の人に建物を転貸してしまった場合です。万が一悪質な入居者に部屋を占有され、ご近所トラブルを起こされたら大家さんに大きな被害が生じます。不誠実な代行業者に管理を任せた企業側の信頼も失墜してしまうでしょう。
トラブルを避ける方法としては、建物賃貸借契約の条項に「企業の社員以外に建物を転貸した場合は、催告なしに本契約を解除することができる」という記載を入れること。
企業側としては、口コミや実績をしっかりと精査して、誠実に管理代行を行ってくれる業者を選ぶことが大切です。
社宅使用契約書とは?
賃貸借契約書と似ているのが、社宅使用契約書です。社宅使用契約書とは、貸主である会社と入居者である社員が交わす契約書のことです。契約書へサインすることで、貸主が同意したことを示します。
社宅使用契約書には、対象の物件(物件名、住所、郵便番号、管理者)、賃料や共益費とその支払方法、「契約者以外の同居は原則禁止」といった入居者の義務、契約解除に関する取り決め、退去時の対応(原状回復費用など)に関する項目を記載します。
書式例は以下のとおりです。
社宅使用契約書
○○○株式会社を甲とし、○○○を乙として、後記表示の甲所有社宅の使用に関し、次のとおり合意する。
第1条 甲は、平成○○年○月○日より、甲所有の社宅へ乙の入居を許可し、その使用を認める。
第2条 乙は甲に対し、社宅使用料として毎月金○○○円支払う。この使用料は、甲より乙に支給するその月の給料から天引きする。
第3条 乙は社宅を清潔に管理し、甲の事前許可を得ないで模様替えまたは増築を行わない。
第4条 乙は甲の承諾なくして他人を同居させない。
第5条 社宅の使用は乙の在職中に限る。乙が退職または転任の命を受けたときは○○日以内に明け渡す。
第6条 乙の在職中といえども、甲において社宅の必要を生じたときには、乙は甲の指示に従って明け渡す。その場合、甲は○ヶ月の猶予期間をおいて予告する。
第7条 社宅の建物および附属施設につき不可抗力によって修繕する必要を生じたときは、甲においてこれを行う。
第8条 乙が故意過失により社宅または附属施設を損傷したときは、甲に対し弁償の責任を負う。
平成○○年○月○日
甲:○○県○○市○○町○丁目○番地
○○○株式会社
取締役社長 ○○○○(印)
乙:○○県○○市○○町○丁目○番地
○○○○(印)
社宅使用契約書を
作成する際の注意点
社宅使用契約書を作成する際は、同時に「社宅規定」も定めましょう。社宅使用契約書には、社宅を提供する企業と社員間で「大前提」となる契約内容だけを簡潔に記載します。
ゴミ出しのルールや駐車場利用方法、騒音防止に関すること、入居申請の手続方法など、社宅の利用に関する細かいルールは社宅規定に明記しておけば、契約書を補完することができるでしょう。
特に慎重に検討すべきなのが使用料です。家賃を賃料相当額の50%以上に設定することで、非課税になります。使用料は借地借家法の適用可否に関わる上、社員の負担にも直接関わります。専門家に相談しながら検討してみてください。

社宅代行サービスなら、建物賃貸借契約を含む契約手続きもサポートしてくれます。「担当者に専門知識がなく、契約手続きが不安」「手続きについて専門家に相談してみたい」とお考えなら、社宅代行会社に相談してみてください。
社宅代行会社を選ぶ際は、受託企業数や受託管理件数、全国の直営店数などをチェックするのがおすすめです。実績豊富な代行会社にアウトソーシングすることで、コスト削減や社宅管理担当者の業務効率化、社員満足度向上を叶えることが可能です。